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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2179号 判決

控訴人 石塚水徳

被控訴人 勝野朝喜 外一名

主文

昭和三十一年(ネ)第二一七九号事件の原判決を取消す。

被控訴人勝野は控訴人に対し金十三万五千円及びこれに対する昭和三十年六月三十日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件の控訴を棄却する。

訴訟費用は、昭和三十一年(ネ)第二一七九号事件の第一審の分及び控訴費用を被控訴人勝野の負担とし、昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件の控訴費用を控訴人の負担とする。

この判決は控訴人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、昭和三十一年(ネ)第二一七九号事件につき、これに関する主文同旨の判決、昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件につき、原判決を取消す、被控訴会社は控訴人に対し金二十六万五千円及び内金十三万五千円に対する昭和三十年六月三十日以降、残金十三万円に対する昭和三十年七月一日以降、各完済まで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一・二審共被控訴会社の負担とするとの判決、並びに各仮執行の宣言を求めた。被控訴人勝野は昭和三十一年(ネ)第二一七九号事件につき右に対する答弁をしない。被控訴会社代表者は昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴代理人において、

一、昭和三十一年(ネ)第二一七九号事件につき、本件手形の支払のためにする呈示については、次のとおり主張する。即ち、本件手形の所持人である控訴人は、満期の昭和三十年六月二十五日、支払場所において右手形を呈示しようとしたが、その際たまたま裏書人である被控訴人勝野から、二・三日後に現金支払ができることを理由としてしばらく呈示を猶予して貫いたい旨の申出があつたので、控訴人はこれに応ずることとし、同日控訴人と被控訴人勝野との間に呈示期間を同年六月二十九日まで延長する旨の特約をした。控訴人は右特約に基いて満期の日に手形を呈示することを中止し、同年六月二十九日にこれを呈示したものである。

二、昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件につき、控訴人主張の(一)及び(二)の手形が被控訴会社主張のように偽造されたものであることはこれを否認する。右手形はいずれも被控訴会社により真正に作成交付されたものである。

と述べ、証拠として、控訴代理人において甲第三号証を提出し、当審証人新井誠一の証言、当審における控訴人及び被控訴人勝野各本人尋問の結果を援用し、乙第五号証の成立を認め、被控訴会社代表者において昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件につき乙第五号証を提出し、当審証人新井誠一の証言を援用し、甲第三号証の成立を認め、被控訴人勝野において甲号証に対する認否をしないものであるほか、それぞれ昭和三十一年(ネ)第二一七九号及び昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件の原判決摘示の事実及び証拠関係と同じであるからこれを引用する。

理由

先ず昭和三十一年(ネ)第二一七九号事件についてみるに、控訴人主張の事実は、被控訴人勝野において、同被控訴人がさきに本件手形を他から取得したことを認めるほか、これについて何等の陳述をもしないのであるが、弁論の全趣旨によつても被控訴人勝野において控訴人主張の事実を争つたものと認めるべき形跡が存しないから、右事実は被控訴人勝野において明かにこれを争わず従つてこれを自白したものとみなされるものである。

そこで控訴人主張の事実に基いて判断するに、本件手形の支払のためにする呈示は、法定の呈示期間又は支払拒絶証書の作成期間経過後の昭和三十年六月二十九日に初めてされたものであることが明かである。しかしそれは本件手形の所持人である控訴人と裏書人である被控訴人勝野との間において、満期の昭和三十年六月二十五日に、被控訴人勝野の申出により、控訴人主張のような本件手形の呈示期間を延長する旨の特約が成立したためにほかならないことも亦明かなところである。このような呈示期間延長の特約は、一般に手形上の効力を有するものでないことはいうまでもない。しかし右特約の趣旨は、満期を変更するのではなく、遡及権行使の要件である呈示について法定の呈示期間を延長するにあるのであるから、右特約は直接の当事者間においてはこれを有効なものとするのが相当である。なお右呈示期間延長の特約は、これに伴つて当然に、拒絶証書作成の義務を免除することについてもその合意があるものと解することができるのである。このように呈示期間延長の特約が、直接の当事者間において有効なものである限り、たとえ前記のように手形の呈示が法定の呈示期間又は拒絶証書の作成期間経過後にされたものであつても、その呈示の日が延長された期間内である以上、その直接の当事者間においては手形上の遡及権を失わしめるものでないといわなければならない。以上説示のとおりであるから、控訴人が裏書人である被控訴人勝野に対し右特約の趣旨に基き本件手形について遡及権を行使して手形金十三万五千円及びこれに対する呈示の翌日である昭和三十年六月三十日以降完済まで手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払を求める本訴請求は正当である。

右と異る原判決は結局相当でないことに帰し、この点に関する本件控訴はその理由がある。

次に昭和三十二年(ネ)第一一五九号事件についてみるに、当裁判所の判断は、次の点を附加するほか原判決理由の説示するところと同じであるからこれを引用する。即ち、控訴人が当審において提出援用する甲第三号証の記載、当審証人新井誠一の証言、当審における控訴人及び被控訴人勝野各本人尋問の結果によつても右の認定を左右するに足らない。他にこれを左右するに足る証拠はない。以上により原判決は相当であつてこの点に関する本件控訴はその理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 村木達夫 山下朝一)

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